タイトル通りの話です(自分のリハビリとは……)
久々なのでどこにオチつくのか自分でも不明ですが、本郷さんと力石は通常通り。
もちろん、ちょっとだけ甘くです!
「あれ、本郷さん。久し振りだね」
「お……力石か」
ゆっくりと飲んでいた俺の前に力石が現れた。
たしかに久し振りだ。
「座っていい?」
「モチのロンだぜ」
広げていた皿を少し集めて、力石の場所を作る。
今から奴は俺の前で店を広げるのだ。
気合を入れて見守らなければならない。
「すいません、今日のオススメにあった鯛の……」
「そこから行くのか!」
「ん?」
「いや、何でもない……」
しばらく会わなくても力石は力石だ。
店主も何やらにこやかで、俺に対する表情とは違う。
食の宿敵め。
「この間来た時、あの鯛のが美味くてさ。ぜひ本郷さんにも食べてもらいたい」
「あ、ありがじゅう……」
「……何?」
「え、いや、ありがとうのとうって、十って読み替えが出来るだろ? だからそれを引っ掛けた……」
へー、と力石が素直に感心している。
感心されても、自分のギャグを説明する事くらい屈辱的な事はない。
おのれ、力石。
「本郷さんに会うと楽しいよ」
「……そ、そう?」
「ああ。あ、乾杯、どう?」
「お……」
力石は熱燗から入った。
昨日と違って今夜は急な寒さがしみる。
俺だって次は熱燗にするつもりだったのだ。
最高だけど、最悪のタイミングだとも言える。
「じゃあ、久し振りの再会に」
「おお」
熱燗は鼻から通る。
甘い匂いに酔わされて、身体の中から気持ちいい。
「美味い……」
「ほんと。店主の燗酒、最高だ」
お猪口一杯の酒が、久し振りを忘れさせてくれた。
昨日会ったばかりのように話が続く。
「お待たせしました」
「どうも」
「お……」
力石のオススメがやってきた。
輝く鯛の身に、思わずよだれがたれてしまった。
「本郷さん、食べてくれ」
「お、おお……いや、力石が先だろ」
注文したのは力石だ。先に箸をつける権利がある。
さすがの俺も、そこは遠慮してしまう。
「いいのに。最初の一口が一番美味いんだぜ」
「ぬっ……」
そう言われたら、いてもたってもいられなくなった。
思わず皿を睨んでしまう。
力石が笑った。
「俺と食べてる時に、遠慮しなくていいよ」
今夜の力石は、牙を抜かれた魔狼なのか。
「んじゃ、ちょっといただきます」
箸を伸ばして、端の方をつまんだ。
じっと見ている力石の視線に、手が震えてしまいそうだ。
「ぬあっ!」
「大丈夫か、本郷さん」
約束されたように、俺の鯛がテーブルに落ちた。
「セーフ、これ、食べるから!」
慌ててつまんで、口に放り込んだ。
美味い。
身が甘くて、食べた俺が今踊りそうだ。
「こいつは……美味いわ……」
再び箸が動く。
今度は美味く食いつけた。
そっと燗酒で追いかける。
本当に美味い。
(力石、鯛が踊ってるぜ)
そう言いかけて、ぐっと堪えた。
何を俺は、メルヘンチックなオジサンになっているのか。
「……美味い」
よく見れば、力石は俺と同じ食べ方をしていた。
鯛をつまんで、酒を飲んで。
もしかして、俺の真似っ子。
ようやく力石も、俺のすごさにひれ伏したのだ。
鼻が天井にぶつかるかと思うくらい高くなった瞬間だった。
「……おまたせしました」
「あ、これこれ。本郷さん、さっきの以上に美味いんだぜ」
いつの間に。
俺が全く気づいてなかった一品が、また目の前にある。
「うま、そう……」
「苦手だった?」
「とんでもない。大好き」
「大好き、か」
力石が笑う。
「大好きだぜ!」
俺はもう一度大きな声で言ってしまった。