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おもいつくままに

色々と止まらなくなり、ひとまず置き場所をつくりました。

14 ■ 鳩のいじわる・その後

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14 ■ 鳩のいじわる・その後

絶望的なまでにカンの鈍い本郷さんと、一気にガッといけないけど、かなり本気の力石……
というのが、甘くて大好きです。たまらん。

「本郷さん、違う〜(涙)!」と突っ込んでいただけたら、今回のネタ、オッケーです。




「じゃあ、力石。乾杯」
「乾杯」

鳩に糞を落とされた、悲しい俺のコートのことは忘れた。
汚れなんて、クリーニングに出せば、数日で元どおりになるだろう。

今夜はモツ焼きを、ひたすら楽しく食べている。
酒は、軽く冷酒をひっかけて、そのまま熱燗になだれ込んだ。
鼻の奥をくすぐる燗酒の匂いは、甘い幸せだ。
ゆっくりと回る酔いも楽しめる。

「やっぱり、燗酒は美味いな」
「おお」

初めて、力石は何の主張もせず、俺の選択に従っている。
大人しい。
大人しすぎて、何を企んでいるのやら、だ。

「モツ焼きに、宇宙を感じるぜ、俺は」
「……壮大だな、本郷さん」

力石と目が合う。
意味なく見つめ合っているうちに、その肩が震えた。
そのまま、しぼり出すような声で、笑い出す。

「おまえなあ……」
「ごめん、本郷さん。ガマンしてたんだけど……」

今夜の力石は、大人しいのでも、企んでいるのでもない。
俺を見て、笑い出すのをこらえているだけなのだ。

当然、今の俺は、何もやってない。
店に入る直前、たまたまからかった鳩に糞を落とされて、コートを汚しただけだ。
この先、二度とないだろうと思うようなタイミングで。

「俺さ、もう鳩、ダメだ」
「それは俺のせいじゃないからな。あいつら、次に見たら、食うぞ」
「鳩を?」

また爆笑だ。
くそ。

汚れを見ないように、そっと引き寄せたコートのポケットに手を突っ込んだ。
手探りで、タバコとライターを取る。
食べている途中で吸うつもりはない。
力石の笑いを、なんとか止めてやろうという、俺の優しさだ。
タバコとライターで、どう笑いが止まるのかは、俺にもわからないけれど。

「そういや、力石って、タバコ吸う?」

ようやく、笑いに打ち勝った力石の視線が、俺の手にしたタバコを追う。

「あ、やめた」
「やめた?」

意外な答えに驚いてしまった。
そういえば、タバコを吸っている姿なんて、見たことがない。
勝手に、プカプカ吹かしているように思っていた。

「いつ?」
「ん……結構、最近……?」

俺は、長い人生で、禁煙をしたことがないのが自慢だ。
やっぱり、力石は、俺に出来ないことが出来るというのだろうか。
タバコをやめる気はサラサラないけれど、ちょっとだけ悔しくなる。

「ちなみに、どういう理由で?」

力石が、不躾に俺を見た。
こっちから視線を外すのは、負けるような気がして、そのまま俺も見つめ返す。
しばし、言葉が止まる。

「本郷さんが、吸ってるから」
「へ?」
「俺は、吸わなくてもいいなかって」

意味がわからない。
俺が吸っていたら、力石は吸わなくてもいいって。
どういう発想からだ?

「そんな謎の理由で、タバコをやめたってのも、すごいな」
「そう?」

俺も意外と意地悪だ。
いや、力石相手に意地悪もクソもない。
戦略と言っておこう。
単に、しつこく聞いているだけかもしれないけれど、酒の席では上等だ。

「じゃあ、突然吸いたくなったらどうする?」
「そういう時は、本郷さんの傍に行けばいい」
「……え……?」

わかった。

力石は、俺に、タバコをせがんでいるのだ。
自分は持たずに、必要があれば、俺を利用する。
なんという、ケチくさい男。

「……力石よ……タバコくらい、分けてやるぞ」

力石の目が、今夜一番、厳しく俺を見た。
深い視線に刺されるようだ。
なぜ、だ?

「……俺、本郷さんは、タバコの匂いがするって、言ったろ?」

力石が動かない。
視線は、俺から離れない。

「……加齢、臭……」
「じゃないよ。俺は、それ、言ってない」

ゆっくりと、力石の視線が、俺の肩のあたりで止まる。

「匂いがいいんだ」

あ。
俺は、タバコの匂いのする男だった。
力石は、俺からタバコをもらいたいのではなく、タバコの匂いでいいらしい。

なるほど、わかった。

匂いだけで満足出来るなんて、禁煙に成功した力石は、実に謙虚だ。
応援してやりたい。

「謙虚すぎるぞ、力石」
「……え? け、謙虚?」
「禁煙を維持するために、匂いでいいとはな」

その時の力石の顔。
見たこともないくらい、呆然とした顔をしていた。

「俺、褒めたんだ、ぞ?」
「謙虚……か……」

何やら考えながら、力石が俺の言葉を繰り返す。
謙虚は、難しかったんだろうか。
別に俺は、間違ったことは言ってない、と思う。

「そう、しとくか……」
「何だ?」
「本郷さん、そのライター、くれる?」

いきなり、何を言い出すのかと思った。

「おまえ、吸わないんだろ?」
「記念に」
「何の?」

どこかの店でもらった、どこにでもあるライターだ。
惜しくもなんともない。
力石に手渡した。

受け取った力石は、軽く手のひらで転がす。
ライターを握る仕草も、隙がない。

「俺を謙虚だって言った、本郷さんの記念」
「意味がわからん」
「じゃあ、鳩に……」
「それはもういい」
「もらうよ」

俺のライターは、笑う力石のポケットに消えた。

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プロフィール

HN:
タケル
自己紹介:
本力にどハマりしました。
そしてドラマ版を見たら、本郷可愛さにグッと胸掴まれて……(萌えは勝手です)結局、二人が好きなのだと、自分で納得。

小話は「■ 本力」「□ 力本」分けてみました。
ほぼ変わりはないけど、ひとまずの目安にしていただけたらです。
(小話が増えてきたので、自分の確認の意味も込めて、番号も振ってみました)

とにかくもう、二人が可愛くて(格好よくても含まれる)たまらんので、日常っぽい短い話や、覚え書き等、こそっと置いていきます。

※ 原作の感想は、金曜の朝頃、バレはないように萌え語ります……(この発散もしたくて作ったブログなので)


つぶやき @takerun_001
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サークル 本郷格好委員会

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