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おもいつくままに

色々と止まらなくなり、ひとまず置き場所をつくりました。

8 ■ 音

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8 ■ 音

毎日アホほど暑いので……甘さにゾワッとする感じの小話にしてみました。
(普通に、いつものように呑んでるだけで、短い話です)
ちょっとだけ、本郷さんに甘さを求めた!

※ アップ後、一部訂正(いつもの誤字脱字いい……すいません)





ここだと決めた店に入り、最初のビールに幸せなため息をついた瞬間、力石が現れるのにはもう慣れた、と思いたい。
力石は、どんな店にも現れる。
神出鬼没なんて言葉は、格好いいから使いたくないけれど、それ以外、表現出来ない自分が憎らしい。

「あれっ」
「お……元気そう、で」
「本郷さん、ここ来るんだ」

近づいてきた力石が、俺の隣に腰を下ろす。
周りから見る分には、親しい間柄に思えるだろう。
遭遇する回数からすると、そうかもしれないけれど、多分、違う。
俺は、力石のことを、何も知らない。

「力石こそ、よく来るの?」
「たまに。ここでは会ったことないね」

初めて来た、だなんて、弱味っぽいところは絶対に見せたくない。
曖昧に誤魔化して、ビールをあおる。

「すいません、ビール」

力石の落ち着いた声が通る。

「で、何にするんだ?」
「俺? そうだなあ……本郷さんは何頼んだ?」
「今から……」
「あ、そうなんだ。じゃあ……」

壁に貼られた一品料理のきらめきが、力石の視線の鋭さにかすむ。
この視線の選ぶ先に、俺はどれだけ打ちのめされてきたことか。

早速、あら煮を取られた。

力石は、ビールを楽しんでいるのに、もう酒に移る算段を立てている。
悔しくて、変な声が出てしまった。

「本郷さん?」
「あ、いやっ、俺は、別に」

思わず、力石の口元を見ていた。
誤解されても困る。
俺は、力石が選ぶ料理が出てくる言葉の元を、見ていただけなのだ。
耳からだって、ちゃんと聞いている。

「食べるよね?」
「え」
「せっかくだから、一緒に食べよう」
「お、おお……じゃあ、かぶらないものを……」

ペースは完全に力石のものだ。
負けてはいられない。
俺も、力石が納得する料理を、選びに選んで注文する。

失敗はなかった。



酒がすすむと、戦いを忘れそうになる。
力石は、気楽に箸を伸ばし、杯を重ねる。
俺も負けずに呑んだくれる。
すっかり胃袋は、冷酒仕様になっていた。

「それにしても、毎日暑くてたまらんよな」
「本郷さんも暑いんだ」
「え? 暑くてたまらんよ、俺は。暑いのキライ」

力石が笑う。
意味がわからない。

「だってコート、それ自体がもう暑いだろ?」
「……これは、俺の主義なんだから、いいの」
「へえ」
「おまえこそ、その格好、暑いだろ」
「俺も、これは俺の主義だよ」

俺の言葉を返されたのに、納得してしまう。
そうか。力石も主義だったのか。

「ま、いい話だ」
「……酔ってるねえ、本郷さん」
「酔ってはない。酒が美味いだけだ」

唐突にコップを向けて、何度目かの乾杯をする。
一人だと、全く気にならないけれど、力石といると、つい、このコップの重なる音が聞きたくなる。
別に、澄んだ響きだとは思わない。
酒の入った、ただの器の音。
強いて言えば、たまに触れる力石の指先で、二人で呑んでいることを思い出して、酒の味が変わるような気がするだけだ。

「さっきから思ってたけど」
「ん?」
「残ってる酒の量で、音が違うね」
「……そうか?」
「本郷さん、空にしてみて」

言われるがままに、コップの酒をぐっと呑む。
もう一度、力石と器を合わせた。

「ほら」
「……そう、かな。同じに聞こえるけど」
「本郷さん、酔ってるからだよ」
「……おまえが今、呑ませたんだろ。酔ってたら呑めないよ」
「じゃあ、俺も呑む」

力石の呑み方は、最初から最後まで、乱れることがない。
実にきれいに味わう。

「もう一回」

カチリ、と、音がする。

「……同じ、だろ?」
「そうかなあ。絶対に違うと思うけど」
「……じゃ、もう一杯、いっとくか」
「キリがないけど、それもいいね」


追加した冷酒がやってきた。

「かん、ぱい」

力石の声と、俺の声が重なった。
言い出した最初の音も、言い終わった最後の響きまで、同じだった。

「仲、いいねえ。オレ達」

思ってもない言葉を言ってしまった。
思わず、口をすぼめた俺を見て、力石が笑う。

「ほんと、そうだな」

もう一度、静かにコップを合わせた。
それは、確かに深い音がして、さっきまでとは少し、違って聞こえていた。

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プロフィール

HN:
タケル
自己紹介:
本力にどハマりしました。
そしてドラマ版を見たら、本郷可愛さにグッと胸掴まれて……(萌えは勝手です)結局、二人が好きなのだと、自分で納得。

小話は「■ 本力」「□ 力本」分けてみました。
ほぼ変わりはないけど、ひとまずの目安にしていただけたらです。
(小話が増えてきたので、自分の確認の意味も込めて、番号も振ってみました)

とにかくもう、二人が可愛くて(格好よくても含まれる)たまらんので、日常っぽい短い話や、覚え書き等、こそっと置いていきます。

※ 原作の感想は、金曜の朝頃、バレはないように萌え語ります……(この発散もしたくて作ったブログなので)


つぶやき @takerun_001
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サークル 本郷格好委員会

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