そろそろ投稿と思っていたのに、あまりにも短い話なので挫折しました……
いつもと同じ、一緒に飲みに行く感じで。
雨がやまない。
今夜行こうと決めていた店は、まだ少し先にある。
駅の改札を抜けたものの、出るに出られず、足は止まっていた。
このまま小降りになるのを待つべきか、悩んでいた時だった。
「本郷さん?」
思いがけず、声をかけられた。
視線をむけた先に、傘をさした力石がいる。
どこから、どうやってくるのか、力石は、いつも不思議な現れ方をする。
「まさかおまえと、こんなところで会うとは……」
「どこ行くんだ?」
「天ぷら……」
「ああ、ちょっと先だな」
悔しい。
また、力石も知っている店のようだ。
「入る?」
「店? もちろん……」
「いや、傘に」
「え」
おもむろに、力石が傘を差し出してきた。
一瞬、身体がひいてしまう。
「そこ、俺も行くよ」
「何?」
これは、本心なんだろうか。
俺が傘を持っていないから、わざとそんな風に言っているのではないのか。
まさかここで、敵の情けに触れるとは。
じっと、力石を見つめてしまった。
「本郷さん、行こう。いい冷酒が入ったって聞いてるよ」
「おお……天ぷらには、冷酒がいい、よな」
その噂は、俺も聞いてきた。
力石に先導される形になるのは、とにかく口惜しい。
けれど、このまま雨がやむのを待っていたら、店が閉まってしまいそうだ。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
「どうぞ」
力石の差し出す傘の下に、そっと身体をすべりこませた。
とはいっても、並ぶと、俺も力石も、半分くらい傘からはみ出している。
なんだか、おかしい。
「なあ、力石。結局、濡れるんじゃないか?」
「それでも、ここでやむのを待つよりは、天ぷらと冷酒に近づくよ」
「まあ、そう、だな」
こいつは、俺の胃袋を掴みにきやがる。
頷いて、歩き出した。
ゆっくりと、あたりも動きだす。
「……梅雨も、もう明けるかな」
黙って歩くのも気まずい。
俺から普通の話を切り出した。
昼間、そんなニュースを見た気がする。
「そうだな。そしたら、一気にビールの季節だな」
「おお、いいねえ。ビールに天ぷらも悪くないぞ」
「ビールだったら、串カツだろ。そういえば、いい店があるんだよ」
「へえ」
降る雨が、全く気にならないくらい、話が白熱した。
力石のすすめるいい店を、素直に聞けた気もする。
もちろんそれは、今夜行く店に入るまでの間だけれど。
「意外と近かったね」
「すまん、力石。助かった」
「いやいや。せっかくだから、天ぷら楽しもう」
「冷酒もな」
「何がいいかな」
傘をたたむ力石の、濡れている肩を払ってやった。
「本郷さん」
「ん?」
「そっちこそ、濡れてるだろ」
「ああ、俺は大丈夫……」
同じように、肩を払われる。
何やらくすぐったい。
当たり前だけど、力石の手は濡れていた。
やはり、今夜の雨はやみそうにない。
「入るよ」
「お、おお」
店に入ると、おしぼりがあるから、大丈夫だろう。
俺は、ポケットに手を突っ込んで、すっかり拭いた気になっていたのだった。