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おもいつくままに

色々と止まらなくなり、ひとまず置き場所をつくりました。

10 ■ 好きと嫌い

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10 ■ 好きと嫌い

迷ったんですが、初の力石視点から、いきます(この人は情報が少なすぎて難しい)
絶対に誰もが考えただろう土佐の回の、P121の最後のコマと、P122の最初のコマの間の捏造です。

どう考えてもあの回は、妄想大爆発にもほどがあるので、ちょっと距離が近づきました(が、酔ってるのでいつもと変わらず……)





カツオのタタキは、今まで何度も食べてきた。
しかし、今日のタタキは確実に違う。
目の前で、本物の藁を使って焼いてくれるのだ。
どう考えても、美味しいに決まっている。

今日は、カツオのタタキを日本酒で楽しもうとやってきた。
店に入った途端、見慣れた人がすでに酒を楽しんでいる姿に出くわしてしまった。

その人、本郷さんとは、頻繁にあちこちの店で出会う。
いつだって、一人で楽しそうに酔っぱらっては、俺に話しかけてくる。
飲み屋で、そんな人に出会ったことがなかったけれど、どこか不思議で楽しくて、俺から話しかけて一緒に飲むことも多い。

「な、何、力石!」

カツオのタタキに浮かれていた俺は、思わず手招きしていた。
近づいてきた本郷さんに、そっとささやいた。

「アレ、俺のカツオ。見てみ」
「うわっ、スゲエ」

焼ける藁と、カツオの匂いがたまらない。
出来上がったタタキを、素直に、本郷さんと分かち合いたいと思った。

「本郷さん、マネしてもいいぜ」

瞬間、本郷さんの目が、ギラリと光った。
よほど、カツオのタタキが好きらしい。

「いや、俺は、刺身でいこうかと……」

何やら、歯切れの悪い言い方で、またもや俺を睨んできた。
同じ品を別々に注文しなくても、互いに違う物を選んで、一緒に食べたらいいか。

俺は、本郷さんと向かい合わせに座って、そのまま本気で飲むことにした。




「本郷さん、大丈夫か?」

あっという間に本郷さんは、フラフラしてきた。
俺と飲みだす前に、ビールも焼酎も楽しんでいたらしい。
ビールはいつものことだけど、本郷さんが焼酎を飲むのは珍しい。
そこに、魅力的すぎる日本酒だ。
カツオの美味さを倍増させる酒は、正直誰にも止めようがないだろう。
俺も、結構酔いが回ってきている。

「ほんと、こいつぁ、うまいよ……」

ご機嫌な本郷さんの声に、ふと、思い付いた。
よく一緒に飲むのに、俺は、本郷さんのことを、ほとんど知らない。

「本郷さん」
「……へい」
「嫌いなものって、ある?」

いつも、美味しそうに食べて、飲んでいる。
単純な疑問だった。
別に、ここまで酔っている時じゃなくても聞ける話だけど、きっかけとしては、このくらいから始めるのがいいだろう。
こういう、普通の話をした記憶がない。
いつも、何を話していたんだろう。

「……りきー、し……」

小さい声だったけど、今、しっかりと俺の名前を言った。
俺は、勝手に、食べ物が出てくると思っていた。
酔っぱらいは違う。

「どう、して?」
「タタキ……うまい、から……」
「……?」
「……ず、る、い……」
「それで、俺って?」

全く意味がわからない。
いきなり、俺の名前を嫌いなものとしてあげられたけど、いやな響きはない。
なぜか、親しみを感じる言い方だ。

「じゃあ、好きなものは?」
「ん……ビキニと、パンチィ……」

そう言って、本郷さんは、ものすごくいい笑顔を見せてくれた。

想定外の答えに、どう返したらいいのかわからない。
いや、この顔を見ていたら、当然の気もしてきた。
実に本郷さんらしい。
俺は今、知らなくて知りたかった一面を知ったのだ。

「そうか……ビキニとパンティ、ね……」

こんなの、誰だって笑う。
本郷さん、酔っぱらいすぎだ。
そして、正直なところがたまらない。
我慢ができずに俺は、思い切り笑ってしまった。

思うに、好きと嫌いは、同じくらいの感覚だ。
どっちでもなければ、言葉にもしない。
だから嫌いでも、俺の名前をつぶやいてくれたことが、妙に嬉しくてたまらなかった。

「本郷さん、本郷さん」

嬉しさのついでに、少ししつこく聞いてしまった。
同じことを繰り返したということは、俺も十分に酔っている。
いや、酔っているからこそ、なんでも聞けるのだ。
こんな機会は、今日だけかもしれない。

「本郷さん、俺のこと、ほんとに嫌い?」

勢いで、三回も聞いてしまった。
俺も、どうしようもない酔っぱらいだ。

「……す……」

本郷さんは、小さく答えて、ガクリと頭を落とした。
語尾が消えて、最後まで言ってくれなかった言葉なのに、きちんと俺に届いた。

「……俺も、同じかもしれないよ、本郷さん」

不思議で、興味深い。
気がついたら目の前にいる。
楽しく食べて、楽しく飲める、そんな人を、嫌いなわけがない。

力いっぱい手を伸ばして、眠る本郷さんの顔に触れた。
そっと、頬から顎から、撫でてみる。
触れた先から、しびれるかと思った。


「お連れさま、大丈夫ですか?」
「!」

女将さんに声をかけられて、慌ててそこにあった、飲み干したグラスを掴んだ。
伸ばしていた手を、なんでもなかったように誤魔化す。

改めて、心臓がドキドキしていた。

今のは、酔った冗談だ。
俺は、本郷さんなんて触ってない。
何も言っては、ない。

「ああ、すいません。もうちょっとだけ、このままにしておいてもらえますか? すぐに目を覚ますと思うんで……」

お連れさま、と言われてしまった。
本郷さんは、俺の連れだったのだ。
飲み仲間でも、友達でもなく、連れ。
急に親しくなった気がする。

「……さて、と。先に出るか……」

このまま、目を覚ますまで本郷さんを見ていたかったけれど、俺自身が、どんな顔をしていたらいいのかわからない。
会話だって、思いつかない。
今の、心臓が跳ねたままでいることは、さすがに無理だ。

「勘定、一緒にお願いします。あと、目が覚めたらアイスクリン、出してもらってもいいですか? ここの、すごく美味しいって評判だから……」

甘い俺の気持ちは、酔い覚ましのデザートに込めておく。
目が覚めた本郷さんは、意味がわからずに悩むだろう。
俺に言ったことだって、覚えてないだろうから。

その姿を見ることが出来ないのが、今日一番の心残りだ。


「……同じ、か……」

何気なくつぶやいてしまった自分の答えを、今になって思い返して、一気に酔いが回ってしまった。
落ち着いて、また本郷さんと飲むことにしよう。

深く、深く、フードをかぶり直して、慌てて店を後にした。

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プロフィール

HN:
タケル
自己紹介:
本力にどハマりしました。
そしてドラマ版を見たら、本郷可愛さにグッと胸掴まれて……(萌えは勝手です)結局、二人が好きなのだと、自分で納得。

小話は「■ 本力」「□ 力本」分けてみました。
ほぼ変わりはないけど、ひとまずの目安にしていただけたらです。
(小話が増えてきたので、自分の確認の意味も込めて、番号も振ってみました)

とにかくもう、二人が可愛くて(格好よくても含まれる)たまらんので、日常っぽい短い話や、覚え書き等、こそっと置いていきます。

※ 原作の感想は、金曜の朝頃、バレはないように萌え語ります……(この発散もしたくて作ったブログなので)


つぶやき @takerun_001
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サークル 本郷格好委員会

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