日中が気ぜわしく、なかなか更新が出来なくて……情けない。
せめて甘い?感じで。いつものような本郷さんと力石。
ほんまに短いの続きですいません。
珍しい夜もあったもんだ。
今夜はどうも、食欲がわかない。
とりあえずのビールと、あっさりした漬物で様子を見る。
唐揚げ、焼き鳥……刺身を見ても、今ひとつピンとこない。
「腹は下してないから、変な物は食べてないっぽいがな……」
体がだるくて、頭の芯が重い。
風邪でもひいたのか。
それとも単純に、夏の疲れが出てきたのだろうか。
年齢からくるものでだけは、決してない。
絶対に認めない。俺はまだ若いのだ。
「……本郷さん」
「へ?」
「元気?」
力石が隣に座っていた。
「ど、どうしたよ?」
「本郷さんの姿を見たから、声をかけたのに。ちっとも気がつかないから」
「ああ、そりゃ悪かった」
さっそくビールを片手に、力石が焼き鳥をつまんでいる。
いつにも増して、流れるような注文は、見事だとしか言いようがない。
「焼き鳥、食べる?」
「あ、いや。ちょっと……」
「どうかした?」
俺の手元を見て、力石が首をかしげる。
「珍しいね。食べないの?」
「なんか、風邪っぽいっていうか……どうも調子がよくないみたいなんだよね」
「……風邪? 本郷さんが?」
おもむろに、力石の手が伸びてきた。
よける間もなく、俺の額に触れてくる。
いや、帽子が邪魔をして、鼻の頭から、目の辺りからを押さえられた。
これでは、何をしているのか、全く不明だ。
「力石……どこを触って……」
口から出た言葉ほど、文句はなかった。
冷たくて、気持ちのいい手の平だ。
「本郷さん、熱っぽいよ」
その手が離れた途端、俺は、目を閉じていたことに気がついた。
いかん。力石に隙を見せてしまった。
「……酔いがまわったかな」
「あんまり飲まない方がいいんじゃない?」
そう言われると、飲みたくなるのが俺だ。
力石の言うがままには、なりたくない。
「普通、風邪をひいた時はな。日本酒を飲んで、体の中から消毒するんだ」
「嫌いになるよ」
「え?」
「体調の悪い時に飲む酒は、あまり美味しくない」
きっぱりと言い切られた。
反論の余地がない。
「たまにはさ、優しい食べ物がいいと思うよ」
俺が言い返す前に、力石が注文し始めた。
野菜の煮物と、おかゆはないから、お茶漬け。
「おい、俺の酒……」
「俺も付き合うから」
「へ?」
「さすがの俺も、飲むなって止めた病人の隣で、ぐいぐい酒飲む勇気はない」
「病人じゃないって」
ビールを飲み切った力石が、ためらうことなく烏龍茶を頼んだ。
嘘だ。飲まない力石なんて、ありえない。
「素面で本郷さんと話すのも、悪くないだろ」
「別に話することなんて……」
と、言いかけて、真面目に考えてしまった。
力石と、何を話せばいいんだろう。
ちらりと見ると、全く酔ってない目が、俺に向けられていた。
真っ直ぐな視線が、やけにくすぐったくてたまらない。
「……力石よ。飲んでくれていい」
「でも」
「俺が落ち着かない。今夜は飲まずに養生するから、お前は飲め。すいません、こいつに……冷酒、でいいな?」
「ああ」
強引に確認して、仕切り直しだ。
力石のところに来た烏龍茶は、俺が奪う。
「残念。本郷さんと、色々話したかったのに」
「……今からすればいいだろ。俺は酔ってないんだから」
「それはなあ……」
力石が笑った。
何やら、含みがあるように見える。
「なんだ?」
「ハンデがありすぎる」
「なんの?」
「俺だけ酔ってるのも、ね。まあ、次、会った時にでも」
気持ちよさそうに冷酒を飲んで、ついでに言葉も飲み込みやがった。
「……お前だけって……俺だっていつも酔ってるだろ」
力石が、俺のために注文したお茶漬けは、嫌味なくらいにうまかった。
俺の微妙な頭痛とだるさは、力石の顔を見ていると消えていきそうだったから、多分、気のせいだったのかもしれない。
礼は言わないけれど、次会った時のことは、忘れないようにしよう。
二杯目の酒を飲んでも、全く乱れない力石に軽く嫉妬しながら、今夜の俺は、実に穏やかな食事を済ませた。